社会保険労務士法人・響 所属。雇用保険、退職後の社会保険手続き、労務相談を中心に対応。制度情報を確認しながら、読者が自分の状況を整理しやすいように監修しています。
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「失業保険を一度もらうと、何かデメリットがあるのではないか?」、「将来のために、今回は我慢して受給権を取っておくべき?」。退職後の生活を支える大切な失業保険(基本手当)ですが、このような不安から申請をためらってしまう方は少なくありません。
結論からいうと、失業保険は条件さえ満たせば何度でも受給できる制度であり、現在の生活を守るために活用すべき権利です。ただし、「一度もらうとこれまでの加入期間がリセットされる」ということもあり、仕組みを正しく理解しておく必要があります。
この記事では、労働問題に詳しい弁護士が、失業保険を一度もらった後の仕組みや、よくある誤解、そして退職後の経済的な不安を解消する方法について、わかりやすく解説します。
失業保険を一度もらうと加入期間がリセットされる
まず、検索されている方が最も気にされている「一度もらうとどうなるか」について解説します。
失業保険を受給することで、雇用保険の被保険者期間(加入期間)がリセットされるということは把握しておきましょう。
雇用保険の加入期間がゼロに戻る仕組み
失業保険の給付日数は、退職理由や年齢に加え、「雇用保険にどれくらいの期間加入していたか」によって決まります。
失業保険や再就職手当などの支給を受けると、それまで積み上げてきた被保険者期間は一度リセットされます。これはペナルティではなく、「一度保険を使ったので、また1からカウントし直す」という制度上の仕組みです。
【雇用保険加入期間リセットのイメージ】
- 入社(被保険者資格取得)
- 勤続年数に伴い、加入期間が積み上がる
- 退職して失業保険を受給
- ここで一度、リセット(0年)に戻る
- 再就職(新しい会社に入社)
- 再び0年から加入期間のカウントがスタートする
このように、あくまで保険の加入期間のカウントがリセットされるだけであり、職歴やキャリアが否定されるわけではありませんのでご安心ください。
リセットされると次回の失業保険給付に影響が出る
では、期間がリセットされると具体的にどのような影響があるのでしょうか。雇用保険の加入期間がリセットされることで、次に失業した際にもらえる給付日数が少なくなる可能性があります。
雇用保険法では、加入期間が長いほど、失業保険の給付日数が手厚くなるように設計されています。
たとえば、自己都合退職の場合、以下のように給付日数が変わります。
| 雇用保険の加入期間 | 失業保険の給付日数 |
| 10年未満 | 90日 |
| 10年以上20年未満 | 120日 |
| 20年以上 | 150日 |
失業保険を受給してリセットされると、次の会社で働き始めたときは1年目からのスタートになります。もし、次の会社を数年で辞めることになった場合、積み上げ期間が短いため、次回もらえる失業保険は90日となります。
逆に言えば、「今回受給せずに我慢して、次の退職まで期間を持ち越して合算する」ということも可能です。退職後も貯金などで生活していける場合などは、持ち越しも選択肢の一つにはなるでしょう。ただし、離職から1年以上再就職しないと合算はできなくなります。
失業保険を一度もらうと次はいつもらえる?
「期間がリセットされるなら、もし次の就職先がブラック企業ですぐ辞めてしまったら、もう何ももらえないのでは?」。このような不安を感じる方も多いでしょう。
失業保険は一度受給したら二度ともらえないということはありませんが、一定期間の勤続が必要となります。
では、一度受給した後、次に失業保険を受給する権利を得るのはいつなのか、正確な条件を見ていきましょう。
原則は次の就職先で12か月以上働くこと
自己都合退職の場合、原則として「離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上」あることが失業保険の受給要件です(雇用保険法第13条)。
つまり、今回、失業保険をもらった後、次にまた自己都合で退職して失業保険をもらうためには、新しい会社で最低でも1年間働く必要があります。
もしも数か月で早期退職してしまった場合は、12か月の条件を満たせず、失業保険が受給できない可能性があります。
倒産・解雇などの会社都合退職なら6か月以上
しかし、すべてのケースで1年待たなければならないわけではありません。
もし、以下のような理由で次の職場を退職することになった場合は、特定受給資格者や特定理由離職者として認められれば、条件が緩和されます。
- 会社の倒産、廃業
- 解雇(重責解雇を除く)
- 雇い止め(契約更新がされなかった)
- 長時間残業などの労働条件の著しい相違
- パワハラやセクハラによる退職
このような会社都合退職や正当な理由のある自己都合退職の場合は、「離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上」あれば受給が可能になります(雇用保険法第13条2項)。
「失業保険を一度もらうと損をする」は誤解
インターネット上や知人の話で、「失業保険をもらうと将来損をする」と聞いた方もいるかもしれません。
これらは法的な根拠のない誤解であることがほとんどです。代表的な3つの誤解について、解説します。
「将来もらえる年金額が減る」は誤解
「失業保険をもらうと、将来の年金が減らされる」という噂がありますが、これは間違いです。
以下のように、失業保険と年金は管轄も財源もまったく異なる別の制度です。失業保険を何度受給しても、将来受け取る年金額が減額されることはありません。
- 雇用保険(失業保険):働く意思がある失業者を支える制度
- 公的年金(国民年金・厚生年金):老後や障害などの生活を支える制度
「一生に一度しか使えない・回数制限がある」は誤解
「一生に一度しか使えない」、「3回までしか使えない」といった制限も存在しません。雇用保険法などの法律において、受給回数に制限は設けられていません。
前述した「一定期間働く(被保険者期間を満たす)」という条件さえクリアすれば、何度でも受給することが可能です。
「転職先に受給歴がバレて不利になる」は誤解
「失業保険をもらっていると、次の転職先にバレて採用で不利になるのでは?」と心配される方もいます。
再就職が決まった際、新しく働く会社に「雇用保険被保険者証」を提出することがありますが、ここには過去の受給履歴が詳細に記載されているわけではありません。また、会社側がハローワークに対して個人の受給履歴を勝手に照会することもできません。
たしかに、履歴書の職歴に空白期間があれば、「この期間は何をしていましたか?」と聞かれることはあります。しかし、「失業保険を受給しながら、資格取得の勉強をしていました」などと説明することは、むしろ前向きな期間として捉えられることもあります。
受給していること自体が、採用選考で直接的なマイナス評価になることは一般的には考えにくいでしょう。
失業保険はもらう場合のリスクよりも、もらわない不安が危険
ここまで解説したとおり、失業保険を受給するデメリットは期間のリセットくらいであり、それ以外のリスクはほとんど誤解です。
むしろ、生活費の不安があるのに無理をして受給しないことのほうが、以下のようにリスクとなる可能性があります。
生活費を捻出するために借金してしまう
貯金が底をつき、生活費を払うためにカードローンや消費者金融などで借金をしてしまうケースがあります。
一度、借金生活に入り、返済のための借り入れが続いてしまうような場合、再就職した後も返済のために苦しい生活が続くことになりかねません。
闇バイトなどに手を出してしまう
近年、「短時間で高収入」などとうたう、いわゆる闇バイトによる犯罪トラブルが増加しています。
お金に困って判断力が低下し、知らず知らずのうちに犯罪の片棒を担がされ、最悪の場合、逮捕されてしまう可能性があります。目先の現金を得るために、一生を棒に振るリスクを冒すべきではありません。
焦って転職に失敗する
「早く収入を得なければ」という焦りから、労働条件をよく確認せずに転職先を決めてしまうことも大きなリスクです。
その結果、ブラック企業に入社してしまい、短期離職を繰り返すという悪循環に陥る方は少なくありません。
失業保険を受給して経済的な余裕を持つことは、「冷静に自分に合った会社を選ぶ時間」を確保するためにも非常に重要です。
失業保険をもらうか迷っている人が知っておきたいこと
退職後の不安を解消するために知っておきたい制度やポイントをご紹介します。
受給期間中の免除制度で出費を抑えることができる
退職後は収入がなくなることに加え、税金や保険料の支払いが重くのしかかります。失業保険受給中や失業状態にある場合、申請によって以下のように支払いが減免・猶予される可能性があります。
- 国民年金保険料の免除・納付猶予
- 国民健康保険料(税)の軽減・減免
- 住民税の減免(自治体による)
これらの手続きを行うことで、税金や保険料によって失業中の生活が圧迫されてしまうことを防ぐことができます。役所の窓口で「退職して求職中である」ことを伝え、相談してみましょう。
失業保険をもらいながら職業訓練を受けられる
失業保険を受給し、ハローワークの公共職業訓練(ハロートレーニング)を利用することをご検討ください。公共職業訓練は、求職者が早期に再就職できるようスキルアップを支援するための制度で、テキスト代などの実費のみでWEBデザインやプログラミング、事務スキルなど、さまざまな専門技術を学ぶことができます。
また、職業訓練を受けることで、スキルアップ以外に給付制限の解除により、失業保険を早くもらえる、本来の給付日数が終了しても、訓練が終わるまで給付が延長される場合があるといったメリットもあります。
スキルを身につけてよりよい条件で再就職することは、結果的に将来の安定につながることに期待できます。
失業保険以外の給付をもらえる可能性がある
退職時には失業保険以外にも受け取れるお金がある場合があります。
離職により住居を失うおそれがある方は住居確保給付金、退職前に給与の未払いがあった方は未払賃金立替払制度などを受け取れる可能性があるでしょう。
また、在職中にサービス残業を行っていたようなケースでは、残業代の請求を行うことで、未払い残業代を獲得できる可能性があります。
未払い残業代は最大で3年間遡って請求できるため、継続的なサービス残業をしていた方は、毎月の残業時間がそれほど多くなくてもまとまった金額の未払い金が発生していることがあります。
響グループでは、残業代の請求をはじめ、退職時の金銭に関して弁護士や社労士に初回無料で相談することが可能です。
失業保険の給付や退職後の生活費でお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
失業保険を一度もらうと、雇用保険の加入期間はリセットされます。しかし、それは決して損するわけではなく、制度を正しく利用した結果にすぎません。
転職先で勤務を続ければ、再び加入期間がカウントされ、将来、再度失業保険を必要としたときに利用することが可能です。
また、加入期間がリセットされること以外で失業保険をもらうデメリットは少なく、むしろ受給せずに経済的に困窮し、焦って転職するほうがリスクが高いともいえます。
職業訓練などを活用すれば、スキルアップしながら給付を受けられますので、失業保険を上手に活用し、今後の仕事に役立てていきましょう。
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